|
その日、私は離れた町に住む婚約者のもとへ向かうため、
新幹線に乗っていました。
いつも私を、猛スピードで目的地まで運んでくれる新幹線。
けれど、その日は違いました。
いつしか降り始めた雪は次第にその激しさを増し、
ついに下車駅の手前で止まってしまいました。
乗客たちは、なかなか動き出す気配がないのにしびれを切らしたのか
席を離れ、車内をうろうろ歩き回ったり、
だんだんと落ち着きを失っていきます。
「困ったな。どうしよう・・・」と思いながらも
私は窓の外を眺める以外、なすすべがありませんでした。
すると、隣に座っていた同年代と思われる女性が話しかけてきました。
でも、そのときの私は、人と話す気分ではありませんでした。
しかも、全く初めて会った彼女に、愛想笑いを浮かべて世間話をするのが
とても面倒なことに感じられたのです。
「はい」とか「いいえ」とか
聞かれたことにだけ答えていました。
そんな私をよそに、彼女の質問は続きました。
「遠距離(恋愛)ですか?」という問いに私が「はい」と答えると、
彼女は嬉しそうに、「わたしもなんです」と言いました。
彼女も私と同じで、この春に結婚し、関東から関西方面へと引っ越すとの事。
不思議な偶然に少し嬉しくなり、自然と親近感が湧いてきました。
それからも私たちは、多くの言葉を交わしたわけではありませんでした。
けれど、二人の間には目に見えない暖かい絆がそっと横たわっていました。
ちょうどそんな頃、列車がやっと動き始めました。
やっと、たどり着ける。
そんな歓びの気持ちと共に、
彼女をこの大変な旅に一人で残してしまう罪悪感がありました。
そしてバッグの中にチョコレートがあることを思いつき、
彼女にプレゼントしました。
これからもっと雪が深いエリアを通過して、
彼の待つ町まで行かなければならない彼女。
また、新幹線が止まってしまうかもしれない。
一緒には行けないけれど、
私と同じように、無事にたどり着けることを応援しています。
そんな私の想いをこめたチョコレートと彼女を乗せて、
列車は旅を続けてゆきました。
※このストーリーは、実際に語られたストーリーを元に書かれておりますが、
語った方のプライバシー保護のため、実際とは異なる部分もございます。
また、ご本人のご好意のもと、掲載しております。
|