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ちょうど一年前のことです。
その日は私の誕生日。
妻は私のために近所のイタリアンレストランを予約し、
夕方、店で落ちあう約束をしました。
決して高級ではありませんが、
近所でもおいしいと評判のレストランで
私たちも気に入っていました。
私はその日仕事もなかったので、
家にいる時のラフな格好で出かけました。
誕生日だからといって何一つ変わらない
まったくいつも通りのおだやかな夕べの中を
私はレストランへと向かいました。
「なんなの?その格好は!」
ジャージ姿の私を見るなり、妻は悲鳴をあげました。
あからさまに嫌な表情を浮かべました。
非難をたっぷりとたたえたその視線は、
私の正面を横切って、下へと落ちていきました。
よく見ると、妻はお祝いの席に相応しいきれいな格好をしています。
私のジャージは、一瞬にして、
罪深きジャージになってしまったのです。
しかし、急にそんなことを責められた私の口から
思わず出てきた言葉はこれでした。
「ボロはきてても心は錦だろ!」
結局、私たちは予約してあったディナーをパスして帰るわけにもいかず、
険悪なムードの中で、まずい食事をしました。
早くこの食事が終わることをだけを願いながら、
ただひたすら食べることに専念しました。
何を食べたのか、ちっとも覚えてないけれど、
おいしいはずの食事は、
耐えなければならない試練に感じられました。
何しろこの時は、妻が放った軽蔑の矢が、私のジャージを突きぬけて、
錦の心の奥深くに突き刺さっていましたから。
あれから1年。
また私の誕生日がやってきました。
「あのイタリアンのお店、予約したから」
そう、まさに「あの」お店を妻はまた予約しました。
去年最悪の誕生日を迎えてしまったあの店で、去年のやり直しをしようと
彼女はわざと同じ店を予約したのでした。
私は今年は、ジャージはきていきませんでした。
もう、去年の二の舞はごめんです。
ただ苦難にしか感じられなかった料理もごめんです。
去年、何を食べたのかはよく憶えていませんが
きっと今年も大きくは変わらない料理の数々を
今回は二人で大いに楽しみました。
でも、それだけではありませんでした。
この料理のひとつひとつが、
妻と私の間をつなぐ絆となっていることを感じたのです。
私たちは去年からこのレストランのこの料理でずっとつながっていたことを
しっかりと感じました。
私の心の奥深くに突き刺さっていた軽蔑の矢は、
すっかり溶けてなくなり、
その傷口は新しい絆で消されてしまったような気がします。
※このストーリーは、実際に語られたストーリーを元に書かれておりますが、
語った方のプライバシー保護のため、実際とは異なる部分もございます。
また、ご本人のご好意のもと、掲載しております。
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