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「HIVに感染しています」
医者のひとことで、大学院生だった僕の人生は前進をやめました。
十数年前の当時は、HIVに感染した人の余命は、8〜10年と言われており、血液製剤から感染したと考えられる時期から、
すでに何年も経過していました。
僕の人生は、多く見積もってもあと5年。
今まで順調に道を歩んできたのに、
突然目の前に未来を閉ざすシャッターが降りてきたのです。
誰にも止めることのできない、
決してすりぬけることのできない壁が目の前にたちはだかりました。
死んでゆくだけの人生。
死を待つだけの人生。
もう、どうでもいい。どうにもならない・・・
その頃、僕には一緒に暮らしている女性がいました。
彼女にその事実を告げると、彼女は混乱と怒りで動転しました。
しかし、僕もそれを冷静に受け止められる状態ではありませんでした。
幸いにも、彼女は感染を免れていましたが、
未来のない僕たちの投げやりな生活は続きました。
そんな時でした。彼女の妊娠が明らかになったのは。
僕には当然、こどもを生むという選択肢はありませんでした。
彼女もわかっていました。それはもう、充分すぎるほど。
なのに、彼女のお腹の中のこどもは日に日に成長を続けました。
僕は何度も説得しました。
自暴自棄になりながらも、何度も何度も。
ところが、そんなある日のこと、彼女はこう言ったのです。
こどもを産みたい・・・・
僕には、彼女が何を言っているのかわかりませんでした。
僕の命はあと数年。
彼女だって、こどもだって感染しているかもしれない。
産めるはずがないじゃないか!
再び、彼女の感染の有無を確かめるため、二人で産婦人科へいきました。結果、またしても彼女は感染を免れていました。
産婦人科医は、妊娠が分かった他の多くの人たちに聞くのと同じように僕たちにも質問を投げかけました。
「どうしますか?産みますか?」
ええ?僕は一瞬たじろぎました。
こどもを産む?こどもを産んで、育てていく?
そんな選択肢が僕たちにはあるんだ。
未来に続いてゆく道があるんだ。
その質問は、死の淵をさまよっていた僕の目に、
他の景色を映しだしました。
その瞬間から、僕の止まっていた時計がふただび動き始めたのです。
長い苦しい時間、モノクロで音さえなかった世界が、鮮やかな色を取り戻し、新しいリズムを刻みはじめました。
僕の新しい人生の始まりでした。
※このストーリーは、実際に語られたストーリーを元に書かれておりますが、
語った方のプライバシー保護のため、実際とは異なる部分もございます。
また、ご本人のご好意のもと、掲載しております。
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