【千夜一夜物語】今月のお話は「動き出した時計」です。
プレイバッカーズは、プレイバックシアターを上演する劇団です。
topics 自主公演Vol.16は、無事終了しました!! ありがとうございました。
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千夜一夜物語
2006年
男と女の間
私の原点
勝ち組
足をひっぱりたくはないけれど
あふれだした涙
世界一の場所
3年目の勇気
女子の応援団長
隣同士の不思議な絆
終わりなき苛立ちの日々
2005年
制御不能な気持ち
金木犀の宝箱
ロッキーからの贈り物
打ち砕かれた偏見
人生がすっきりするように。
やっと吐き出せたヘドロ
また会おうね
消えた傷口
もうひとつの目線
凍りついた部屋
幻の川を夢見ながら
手を繋いで、思い出の中へ
2004年
早く来てくれ!
灰色の長い夜が明けるまで
天国からの使者
信念と現実の狭間で
動き出した時計
同じはずの違う愛情
新しい侵略者
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10年間の感謝をこめて。
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千夜一夜物語

動き出した時計

「HIVに感染しています」
医者のひとことで、大学院生だった僕の人生は前進をやめました。
十数年前の当時は、HIVに感染した人の余命は、8〜10年と言われており、血液製剤から感染したと考えられる時期から、
すでに何年も経過していました。


僕の人生は、多く見積もってもあと5年。
今まで順調に道を歩んできたのに、
突然目の前に未来を閉ざすシャッターが降りてきたのです。
誰にも止めることのできない、
決してすりぬけることのできない壁が目の前にたちはだかりました。

死んでゆくだけの人生。
死を待つだけの人生。
もう、どうでもいい。どうにもならない・・・

その頃、僕には一緒に暮らしている女性がいました。
彼女にその事実を告げると、彼女は混乱と怒りで動転しました。
しかし、僕もそれを冷静に受け止められる状態ではありませんでした。
幸いにも、彼女は感染を免れていましたが、
未来のない僕たちの投げやりな生活は続きました。
そんな時でした。彼女の妊娠が明らかになったのは。

僕には当然、こどもを生むという選択肢はありませんでした。
彼女もわかっていました。それはもう、充分すぎるほど。
なのに、彼女のお腹の中のこどもは日に日に成長を続けました。
僕は何度も説得しました。
自暴自棄になりながらも、何度も何度も。
ところが、そんなある日のこと、彼女はこう言ったのです。


こどもを産みたい・・・・
僕には、彼女が何を言っているのかわかりませんでした。
僕の命はあと数年。
彼女だって、こどもだって感染しているかもしれない。
産めるはずがないじゃないか!

再び、彼女の感染の有無を確かめるため、二人で産婦人科へいきました。結果、またしても彼女は感染を免れていました。
産婦人科医は、妊娠が分かった他の多くの人たちに聞くのと同じように僕たちにも質問を投げかけました。
「どうしますか?産みますか?」
ええ?僕は一瞬たじろぎました。
こどもを産む?こどもを産んで、育てていく?
そんな選択肢が僕たちにはあるんだ。
未来に続いてゆく道があるんだ。
その質問は、死の淵をさまよっていた僕の目に、
他の景色を映しだしました。

その瞬間から、僕の止まっていた時計がふただび動き始めたのです。
長い苦しい時間、モノクロで音さえなかった世界が、鮮やかな色を取り戻し、新しいリズムを刻みはじめました。
僕の新しい人生の始まりでした。


※このストーリーは、実際に語られたストーリーを元に書かれておりますが、
  語った方のプライバシー保護のため、実際とは異なる部分もございます。
  また、ご本人のご好意のもと、掲載しております。

( 2004.8.11 )
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