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ぼくは、いつも良い子でした。
どんな時でも常識を考えて行動するように
両親からもそう教えられていました。
常識こそが人間の価値を決める最大のものさしだと思っていたのです。
あれは小学3年生の時。
父は銀行員で、職業柄転勤も多く、
ぼくはそれまで何回も転校をしていました。
その年も、やっとなじんだ小学校から
新しい学校へ移ることになったのですが、
当時、ぼくにはミツルくんという仲の良い友達がいました。
ぼくとはまったく正反対の、わんぱくで、時に大胆な行動をとる、
どちらかというと、「良い子」ではない部類に入る子でした。
「ぼく、転校することになったんだ」
そうミツルくんに伝えてから、どれくらいの日が経ったでしょうか。
彼はある日、ぼくの手にひとつの小さな贈り物を差し出しました。
「これあげる」
それは腕時計でした。
小学生のこどもにとっては、あまりにも不釣り合いな
今から思えば数万円はするだろうと思われる腕時計。
ぼくの常識というものさしでは、決して測ることのできないプレゼント。
こんな高級な贈り物、もらっちゃいけないよなぁ。
お母さんも、お父さんも、返しなさいっていうだろうなぁ。
返さなきゃいけないよな・・・・
でも、ぼくは返したくなかった。
ミツルくんの友情の証をそのまま返したくなかった。
良い子でなくてもいい。
この時計は特別なんだ。
どうしても持っていたい!
ぼくは、誰にも分からないようにして、
自分の部屋にざわめきだつ心と一緒にそっとしまっておきました。
ところが、ある日のことでした。
「お友達から、時計、もらったんじゃない?」
母から突然そう言われたのです。
ぼくの心は再びざわざわと音をたてはじめました。
どうやら、ミツルくんのお母さんが
家から時計がなくなったことに気づき、
それがぼくに贈られたことを知ったらしいのです。
当然、時計はミツルくんの家へ戻ることになりました。
ぼくの、方向を失った気持ちががぐるぐる渦巻く心の中を
一直線に突きぬけて、
それは、振り返ることなく去っていってしまいました。
こうしてぼくの小さな冒険は、自分よりも大きな力によって
あっという間に幕を閉じました。
※このストーリーは、実際に語られたストーリーを元に書かれておりますが、
語った方のプライバシー保護のため、実際とは異なる部分もございます。
また、ご本人のご好意のもと、掲載しております。
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