【千夜一夜物語】今月のお話は「巣立つとき」です。
プレイバッカーズは、プレイバックシアターを上演する劇団です。
topics 自主公演Vol.16は、無事終了しました!! ありがとうございました。
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千夜一夜物語
2006年
男と女の間
私の原点
勝ち組
足をひっぱりたくはないけれど
あふれだした涙
世界一の場所
3年目の勇気
女子の応援団長
隣同士の不思議な絆
終わりなき苛立ちの日々
2005年
制御不能な気持ち
金木犀の宝箱
ロッキーからの贈り物
打ち砕かれた偏見
人生がすっきりするように。
やっと吐き出せたヘドロ
また会おうね
消えた傷口
もうひとつの目線
凍りついた部屋
幻の川を夢見ながら
手を繋いで、思い出の中へ
2004年
早く来てくれ!
灰色の長い夜が明けるまで
天国からの使者
信念と現実の狭間で
動き出した時計
同じはずの違う愛情
新しい侵略者
反対側の気持ち
2つの選択
ぼくの小さな冒険
まっすぐな優しさ
巣立つとき
10年間の感謝をこめて。
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千夜一夜物語

巣立つとき

毎週、週末になると家族全員でハイキングに行く。
それは私にとってはごく当たり前の習慣でした。
父、母、兄、そして私の4人は、それぞれの背中にリュックをしょって、近くの公園や山へと足をのばしていたのです。
ところが、兄が中学生になった頃、「僕はもう行かないよ」と突然の離脱宣言。週末のハイキングは3人になりました。
しばらくすると今度は母が「私はもう行かないから」と言い出しました。
以来、私は父と2人だけで、いつものハイキングを楽しむようになりました。
2人だけのハイキングでしたが、なぜ兄がやめたのか、なぜ母がこないのかなどという疑問を抱くことなく、私は楽しんで出かけていました。

あれは私が中学生になった頃だったと思います。
「今日はハイキングに行きたくないなあ」となんとなくそう思ったのです。
こんなふうに思ったことなど一度もなかったのに、この日ばかりは行きたくなかった。
理由などありません。でも、私が行かなければ父は一人になってしまう・・・父は一人でも行くのかな?それともやめてしまうのかな?
あれこれと父の気持ちを考えるとどうしていいものか心は揺れ動きました。心臓の鼓動が聞こえてくるほどです。それでも私は行きたくなった。

「今日は私、行かないね」

父は「わかった」と一言残しただけでした。
そのまま玄関の扉を開け、いつものようにハイキングにでかけていったのです。
私は、父のことが気がかりで、すぐさま自分の部屋の窓を少しだけ開け、父の姿を探しました。きっと今頃はマンションの階段を降りて道にでた頃かな、そろそろ見えてもいいんだけどなあ・・・そんな思いを巡らせていると、道に出たばかりの父の姿が目に飛び込んできました。正直言って、ドキッとしました。そして一歩一歩遠ざかっていく後ろ姿が私の目と心をとらえました。

今ならまだ間に合う!今なら私、走って追いつける。一緒にハイキングに行ける。
でも、動けなかった。

ハイキングにいかなくてよかった!という気持ちと裏腹に、父はきっと寂しいだろうなあという気持ちがごちゃごちゃになって、私の心は不思議な煙に包まれているようでした。

今考えるとこの時が、私の親離れの時だったのではないかと思います。
私は複雑な気持ちを引き連れて、新しい旅立ちへの一歩を踏み出しました。

※このストーリーは、実際に語られたストーリーを元に書かれておりますが、
  語った方のプライバシー保護のため、実際とは異なる部分もございます。
  また、ご本人のご好意のもと、掲載しております。

( 2004.1.20 )
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