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劇団プレイバッカーズは、プレイバックシアターを上演する劇団です。
topics 次回 自主公演は9/5(日)秋合宿は11/6(土)~7(日)です。皆さまのご参加をお待ちしております。
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●2004年12月1日/第9巻 第1号【心理劇】

2004年12月1日
【心理劇】


特集 日本心理劇学会第9回シンポジウム
心理劇の多様性と可能性
プレイバックシアターによる社会変容
 
宗像佳代(劇団プレイバッカーズ)
(スクール・オブ・プレイバックシアター日本校)
 
1・はじめに
 プレイバックシアターがジョナサン・フォックスによって日本に紹介されて20年の歳月が経過した。この間、プレイバックシアターは、多方面に拡がり、それぞれの領域で発展してきた。心理劇の多様性と可能性を考えるにあたって、本稿では「いびつになった世の中を修復する演劇」としてのプレイバックシアターを取り上げる。
 
2・プレイバックシアターの源
 プレイバックシアターの創始者であるジョナサン・フォックスは、若いころから現代演劇、口承文化、原始共同体の文化に興味を持っていた。青年期のアイデンティティは演劇人であり、アメリカ実験劇場の現場で活動していた。ゆえに、プレイバックシアターの基盤には、まず「現代演劇」そのものがあるといえる。加えて、彼が学生時代から究めた「文字文化以前の口承物語や演劇」、ネパールの村に2年間在住して得た「工業化社会以前の村にある文化や価値観」が次々とプレイバックシアターの大事な構成要素になっていった。
 
3・社会的ニーズに応える演劇
 これらの知識と経験を礎にして、ジョナサン・フォックスが目指したのは、「コミュニティーの回復」を行う演劇だった。そもそも演劇は、言語が存在しなかった太古の時代から現代のものまで社会的なニーズと直結している。これらの演劇は、社会の膿んだ傷を癒し、地域にバランスのとれた視点を持ちこみ、社会全体を統合する役割を担う。今に生きるジョナサン・フォックスは、現代社会のニーズを満たす「これまでにない演劇」を、つまり世界にとって何が間違っているのかを見極め、未来への希望の源となる演劇を、いびつになった社会を修正する即興演劇を、現代版口承文化を創ろうとした。
 以下に、現代社会の変容を成しうるプレイバックシアターの3つのキーワードとして、「感動」「記憶」「一体感」を紹介し、次に、実際にプレイバックシアターを使って校内暴力やいじめを減らす社会変容を試みている事例を紹介する。
 
4.感動
 プレイバックシアターは、口承文化の末裔であり、文字や言語に頼ることなく人々を感動の世界に導く。省みるに、文字をもたない時代の人々にとっての演劇や儀式的表現は幸福や安泰を維持する社会的ニーズに応えてきた。悪霊をはらい、豊作を祈り、季節を祝い、戦いの準備をし、コミュニティーにありがちな違反や不履行を表面化し、自分達のあり方を是正した。太古の人々は儀式や表現活動を行い、深い感動を道具として共同体を維持していた。
 プレイバックシアターは、即興劇のカタチをとって感動をもたらす。インタビューが終わる。ミュージシャンの音楽が会場いっぱい響き渡たり、観客の右脳が刺激される。アクターが色とりどりの布を駆使し、体を使った演技が繰り広げられる。いつしか舞台は芸術性に満ちた空間となり、観客は感動的な物語の世界へ誘われる。五感、六感が刺激され、言葉の枠組みから解放される。左脳の世界から右脳の世界へ、意識から無意識への移行が起こる。そのような無我の境地で体験する感動は「理解」を超えて、「感覚」にアプローチし、世界や人生についての真の洞察をもたらし、その結果、社会を変える力になる。
 
5・記憶
 かつての口承文化と同じように、プレイバックシアターは「物語というカタチ」の記憶をもたらす。物語は、人の興味をかきたて、理解しやすく、鮮烈なイメージとして心の奥に留まる。人類は、昔話、童話、伝説などの物語にメッセージを託して、社会や人をよりよい方向へ導き、教育してきた。物語としての記憶は、いつまでも人の心にとどまり、人生をどう生きるべきかの指針になってきた。
 プレイバックシアターでは、まず観客の一人が自分の体験を語る。その内容が即興の物語として再現される。次の人が語り、2本目の物語が再現される。1本目の物語にこめられた意味が2本目の物語につながり、それがまた、3本目の物語と呼応する。90分ほどの公演が終わるころには、偶然その場に居合わせた観客である数人が語り、それぞれの内容が第1章、第2章、そして最終章となって終結する。各章の個別の物語には、古代からの物語と同様、なんらかのメッセージが秘められていて、まるで語り合うかのように、互いに合意し、反論し、異なる視点を提案する。終演を迎えて、各章は統合され、ひとつの物語として完成し、人々の記憶に残る。
 自分の体験を話した人の姿、その人が主人公になった物語、舞台上に見た鮮烈なイメージ、幾つかの物語に含まれた真理や叡智。それらのものは、決して忘れることのない記憶となって人々の心に蓄積される。そして、社会をよりよい方向へと導く道しるべとなる。私達が幼い頃から慣れ親しんだ多くの童話や昔話がそうしたように。
 
6.一体感
 プレイバックシアターは現代演劇と多くの特徴を共有しているのだが、口承文化の末裔として一線を画している特徴もある。そのひとつが原始共同体文化を引き継ぐかのような参画意識や一体感である。プレイバックシアター上演後のアンケート回収率の高さがそれを実証する。私達の体験では、少なくて三分の一、時には三分の二の観客がアンケートを残す。観客は自らの意見や感情を伝えたくなり、ペンを取るのだろう。
 現代演劇の空間では、居合わせた客と客は、ずっと他人のままである。ところが、プレイバックシアターでは、隣の席の見知らぬ人が、公演が終わる頃には身近に感じられる。それは、短い時間ではあったけれど深い意味と感動を分かち合った仲間に抱く親近感であり、異空間を一緒に旅した仲間との一体感ともいえる。
 終演時にそれぞれの観客は、自分は一人でないのだと感じ、自分達が属する世界をよりよい社会にしたいと願う。ここで生まれる社会を変えようとするエネルギーは、ある特定の偉大な個人の指導によるものではなく、場を共有する仲間全体から湧き出るものである。一体となって自分たちの未来を思い、共に参画してよりよい社会を創ろうとするエネルギーが発生する。
 
7.事例 
  校内暴力やいじめを減らすために
以下に紹介する内容は、私の所属する劇団プレイバッカーズが特定の社会問題に注目し、プレイバックシアターを提供している代表的な事例である。
「背景」
 97年に神戸市で起きた児童連続殺傷事件をきっかけに当時の文部省は「幼児期からの心の教育のあり方」を中央教育審議会に諮問し、翌年の答申は「生命を大切にし、人権を尊重する心などの基本的な倫理観」を育む必要性を説いた。しかし各教育機関の模索や努力にも関らず、依然として青少年犯罪は低年齢化し、凶悪化している。
「課題」
 親は「被害者にも加害者にもしたくないが何をすればいいのかわからない。」と悩み、教育現場はより効果的な教育手法を求め危機の中にある。今、切望されるのは、子どもの心にいじめの悲惨さが直球で届くような手法であり、思いやりの心を育める教育手法であり、「子どもの心に響く授業」である。
「解決策として  - プレイバックシアターによる特別授業」
 劇団プレイバッカーズは、子どもの態度変容を可能にする具体的対策として、プレイバックシアターを学校教育に持ち込んだ。知的に理解させるだけの観念的教育でなく、心が震える教育手法として、そして態度変容のきっかけになる教育手法として。
・進め方
 子どもは、クラス単位で「特別授業」を受ける。「学校向けガイダンス」「事前アンケート」「60分ほどのプレイバックシアター公演」「事後アンケート」の一連の企画から運営までを劇団が支援し、後日、担任の先生と子どもは、この特別授業から学んだものを確認する。
・「感動」と「記憶」
 特別授業では、兄弟げんかや親や先生との葛藤からクラスでの仲間はずれや暴力にまで及ぶ身近なエピソードを扱う。「おねえちゃんなのだからと言われる理不尽さ」「力づくでオモチャを奪われる弟の憤り」から始まり、「仲間に入れてもらいない悔しさ」「誰も助けてくれない孤独感」「暴力を受けた屈辱感」「助けたいけど勇気がないという罪悪感」「素直な気持ちが出せたときの気分の良さ」など、誰でもが抱く切実な感情や気持ちを再現ドラマにする。極端な事例やテレビの中の他人ごとでなく、身近な友達の生の体験であるだけに、子どもは、人の痛みをわが痛みであるかのように感じる。そして、再現された級友の体験は、物語のカタチをとって、いつまでも記憶される。
・「一体感」
 いじめや校内暴力を扱うとき、「いじめっ子」、「いじめられっ子」に焦点をあてた対策がとられがちである。しかし、私たちは新しい視点からの異なった取り組みをしている。つまり、社会変容を念頭に置き、いじめを取り巻く大多数、つまり「一見無関係にみえる傍観者」にアプローチし、彼等の態度変容をゴールとする試みである。
 具体的には、いじめを再現するとき、「そばでみていた友達」を登場させる。加害者、被害者、傍観者というトライアングルを再現して現状を認識させる。大多数は、いじめのシーンに登場する「善意の傍観者」に自分自身の姿を重ね見て衝撃を受ける。「何もしないでいる」自分が「無意識の加害者」であることに直面する。
 肌身にしみる痛みや孤独が劇を通して届いた頃、そして授業の終盤にさしかかる頃、「あなたにでもできることは何?」「あなただったら、どうしてもらいたい?」と問いかける。しばらく子どもは考え、発言する。「大人を呼びに行く」「みんなで大きな声を出す」「一人では恐いけど、友達を沢山連れてきて、やめろと言う」などなど。どうするべきかを大人が押し付けなくても、多くの場合、子どもは自ら答えを持っている。
 次に「この考えに賛成の人は?」と投げかけると、一人また一人、やがて何人かの手が挙がる。周りを見渡すよう指示すると、右を向き、左を見回し、小さな善意を持っている仲間が確かに居ることを知る。一人ではないのだと共同体感覚を抱く瞬間。勇敢でもなく、力も弱い。でもそんな自分でも仲間と一緒になら何かを変える力があるかもしれない。「いじめ」を無くそうという気持ちは一人だと小さいけれど、何人も集まれば確実に力となる。そして、新しい「いじめ」が生まれにくくなる。道徳的な訓示をするのでなく、模範的な態度を押し付けるのでもなく、先生や大人が教えたからでなく、子どもがお互いの体験を通して、お互いを教育し、愛と正義を学ぶ。自分自身の力で、未来の変容をイメージする。それをプレイバックシアターは支援する。
 
「実績」
 2003年度から東京都の公立の小学校では総合学習として「いじめを無くす」をテーマに、中学校では「選択科目授業」として「命の大切さを訴える」をテーマに、また、三重県の公立小・中学校教員と協力して「友達-大切にすること・されること」を目的とした特別授業を実施した。これらの活動の結果、子供や教員から画期的な教育方法として高い評価を得た。
 
8・おわりに
 この事例以外にも、男女共同参画社会の実現、少子化問題、エイズ対策など、社会問題を解決すべく、プレイバックシアターは、活動範囲と応用分野を広げつつある。プレイバックシアターは、人の心を動かし、他者との触れ合いを可能にする。そして、深く感動した観客は、物語のカタチとなった人生のエッセンスを記憶し、社会に愛と正義をと、願うであろう。ジョナサン・フォックスに影響を与えた先人の一人がブラジルの教育者パウロ・フレイレだが、彼の説いた社会教育の実現がここにあると私たちは信じる。
 「誰かが誰かを教育するのではない。自分を自分ひとりで教育するのでもない。人は自らを教育しあうのだ、相互のかかわりのなかで」 ‐ パウロ・フレイレ
 
参考文献
Salas, Jo. 2003 Bringing Changes to Our Schools :School of Playback Theatre
Fox, Jonathan. 1994 Acts of Service : Tusitala Publishing
Edited by Fox, Jonathan and Dauber, Heinrich. 1999 Gathering Voices : Tusitala Publishing
パウロ・フレイレ2001里見実訳 希望の教育学
太郎次郎社
問合せ先
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