毎日新聞(京都)/2007.5.24

プレイバックシアター:観客が語り、役者が即興
「歴史のトラウマ」を考える /京都

◇悲しみ、困惑、希望…感情を共有「こういう気持ち、持ってもいいんだ」

観客が語る体験や心理を題材に、役者がその場で演じる即興劇「プレイバックシアター」がこのほど、北区の立命館大であった。テーマは「こころとからだで考える歴史のトラウマ」。題材を提供した人の「戦争/平和体験」を観客全員が演劇として鑑賞することで、悲しみや困惑、希望などさまざまな感情を共有するねらいがあるという。劇の内容を紙上で再現する。【中野彩子、撮影も】
「トラウマ(心の傷)は単なる個人の体験にとどまらず、必ず社会的問題が隠れている」。米ニューヨークで生まれたプレイバックシアターの、日本での第一人者、宗像佳代さん(46)が舞台の上から説明した。次いで、歴史的トラウマとその癒やしをテーマに、プレイバックシアターも主催する米国人セラピスト、アマンド・ボルカスさんが英語で「まず、今皆さんがどんな気持ちでいるかをプレイバックしてみましょう」と観客に題材の提供を呼びかけた。
客席で1人の男性が手を挙げ「ここは日本なのに、あなたはなぜ英語で話しているのか」と発言。ボルカスさんは「あなたからは怒りを感じる」と補足するように受け答え、宗像さんら3人の役者はすぐ演じ始めた。
「ここは日本だ」「来るなら日本語を勉強してこい」「なんで英語なんだよ」。感情を誇張する身ぶりや手ぶりもつく。観客の男性が言わなかった言葉もせりふとして登場。拍子木や縦笛などで効果音も付けられた。
仕組みが分かったところで、いよいよ本題。観客の女性が手を挙げて舞台に上がった。ボルカスさんは「あなた自身を演じる役者を選んで」などと質問。女性は「広島市の原爆資料館を米国人や韓国人と訪れた際、米国人はとても真剣に見学していた。自分は韓国人に対しては加害者の立場になるが、同じくらい真剣に受け止められるか考え込んだ」と語った。
舞台上にはさまざまな色の布が並んだついたてと、役者が座っていた椅子3脚があるだけ。女性が語り終わった後、3人は演じ始めた。主人公以外の登場人物の演じ分けや場面の切り替えなど、3人の息は打ち合わせをしたかのようにぴったり合っている。筋は女性が語った通りだが、せりふや動きなどは役者の想像力と経験から生まれたものだ。単なる個人体験の再現ではなく、その日観客席に座った人々と雰囲気を共有する空間の創出といえそうだ。
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主催した立命館大応用人間科学研究科の村川治彦講師は「従来の平和教育では歴史事実を知ることに重点が置かれていたが、怒りや困惑など、事実を知ってわき上がった感情をどう受け止め表現するかを扱ってこなかった。役者が演じることで、他の観客も『こういう感情を持ってもいいんだ』という地平に立てる」と意義を語った。

(毎日新聞 2007年5月24日 )