2005年6月/TPIS

WORK-SHOP REPORT
深い一体感の中で心を癒す
『プレイバックシアター』

学校教育や環境教育、また音楽やダンス、アートといった芸術活動やまちづくりなどさまざまな現場で、ワークショップという参加型・体験型の学びのスタイルが広がっている。 
特に最近、目を引くのが“癒し”や“気づき”などをキーワードにしたもの。
そこで人間性回復への手法やヒントとして、体験リポートを紹介する。

くわしくはPDFをご覧下さい。

 プレイバックシアターとは、個人が体験した実話をもとに、その場で即興劇に仕立てるというもの。一般的な公演スタイルとしては、観客の中から手を挙げた人(テラー)が、司会者(コンダクター)のインタビューに答える形で自らの個人的体験を語り、その内容を側で聞いていた役者(アクター)が即興で演じる。
 テラーは、自分の体験が演劇という形で再生されるのを見ることで、喜び・悲しみといった思いを観客やアクターとともに分かちあう瞬間に立ち会う。
 それによって感動がより深まり、悲しみや苦しみが癒されることにつながるという。演劇が、昔の村の祭りのように「うれしさや悲しさを皆が一体となって共有する場」をルーツとするなら、その原点に立ち返ったものと言える。

社会の健全化にかかわる様々な運動と連携する

 このプレイバックシアターは、アメリカの演劇家ジョナサン・フォックスが考案したもので、84年から年1回来日して、ワークショップに携わり、93年にはアメリカで指導者養成のスクールを開いた。
 現在、日本においては、「劇団プレイバッカーズ」という集団がプレイバックシアターの公演・普及活動に取り組んでいるが、代表を務める宗像佳代さんも、アメリカの養成スクールで学んだ一人だ。
 宗像さんが初めてプレイバックシアターに触れたのは、92年のこと。企業研修などの講師である宗像さんは、研修の場でロールプレイグ方式を取り入れるうえでの参考にと、来日中だったジョナサンの公演に参加した。
「自分がまったく触れて来なかった世界を目の当たりにして、とても興味をひかれ、『もっと関わってみたい』と思いました。日本ではプレイバックシアターについて学べる環境がまったくなかったため、アメリカに渡り、ジョナサンが開校したスクールの門を叩いたのです。」
 やがて宗像さんは94年にプレイバッカーズを結成し、日本におけるプレイバックシアターの普及に乗り出す。そして98年には、スクール日本校を開校した。
 公演を続ける中で出会ったのは、福祉や子育て、そして様々な人権問題などに取り組む人々だった。そうした社会活動の場では、いつの時代にも新たな手法が模索されているが、その可能性の一つとして「個人の体験を皆で分かちあう」というプレイバックシアターの手法に注目が集まったのである。
「そもそもプレイバックシアターには、時代とともに世の中の人間関係が複雑になる中で、人々の一体感を取り戻しながら地域社会の健全化を図るという理念があります。その点で、社会のメンテナンスに関わる様々な運動と連携できたことには大きな意義がありました」
 様々な社会活動とかかわる中で、プレイバックシアターはワークショップ形式で積極的に活用されるようになる。具体的なプログラムは、それぞれのワークショップの目的や形態によって異なり、時には参加者がテラーだけでなくアクターを演じるケースもあるという。
「参加者全員が2人1組になり、一方がテラーとして自分の体験を語り、もう一方がそれを即興で演じるという手法もあります。最初はどうしても『恥ずかしい』という意識が出てしまうので、イントロダクションとして全員で鬼ごっこをするなど、自然に身体を動かしたり声を出したりする機会を設けることもあります。」

テラーの言葉を疑似体験し参加者同士が深い共感を

 こうして普段眠っているエネルギーを徐々に高めていき、テラーの体験談をスムーズに演じやすくなったところで、今度は参加者全員の前で演じてもらう。
「人前で語る・演じる」ということは、時として自分をオープンにするというリスクを背負うものであるため、徐々に慣らしていくという過程がここでは大切になる。
 この他にも状況やニーズに応じて様々な手法が考えられるが、どんなケースでも共通するルールがある。
 「それは、テラーが語った内容について、アクターが自分流の解釈や分析を付け加えたり、批判的な表現を加えないということとです。ありのままを受け取って演じる中でこそ、相手の立場や心情を自分の中に受け入れることができ、そこで初めて人間的な広がりに結びつくからです。」
 例えば、企業研修の場に取り入れたとする。よくある光景として、同じ企業内でも、製造現場と営業、経理・総務という具合に部署が異なるとそこで様々な利害の対立が生まれるケースがある。双方の言い分を言葉だけで交わしても理解が進まず、かえって溝が深まることも多い。
 そうした職場にプレイバックシアターの手法を導入することで、各部署のやりがいや悩みを他の部署の人間がアクターとして演じることもできる。言葉では邪念が入って理解できないことも、身体によって演じることで相手の立場を疑似体験し、共感が深まるというわけだ。

「声なき声」への共感が目指すべきテーマの一つ

 テラー、アクター、そして両者が演じる光景を見る観客―この三者が深い共感をもって一体化するのは、テラーの個人的体験の中にある普遍的なテーマが、プレイバックシアターという媒介を通してにじみ出てくるからだ。
「テラーを募る際に、私たちが頭に入れていることは、『声にならない声を持っている人を忘れない』ということです。例えば、『子育て』をテーマにした公演を行うとき、多くのテラーが『子育ての楽しさや苦労』をアピールします。一方で、観客の中には、子供がいなかったり、子供を亡くされた方がいるケースもあります。私たちは、意識的に後者の方々にもテラーとしてお誘いしています」
 いわばマイノリティに属する人の体験の中にも、実はその他大勢の人々が深く共感するテーマが眠っている。それを表に出すことで、少数者の心を多数者が理解し、少数者は心が癒され、心が繋がる。この構図こそ、プレイバックシアターが望む効果と言える。


宗像佳代
Kayo Munakata
東京教育大学英語英文科専攻卒業。官公庁や民間企業の各研修にて講師を務める時、斬新な手法としてプレイバックシアターと巡り合う。1993年よりスクール・オブ・プレイバックシアターニューヨーク校にて学び、1995年に日本人第一号生として同校を卒業。現在、劇団プレイバッカーズの代表、および、スクール・オブ・プレイバックシアター日本校代表。株)アズ代表取締役

第12回 劇団プレイバッカーズ自主公演
日時/2005年9月10日(土)開場13:00開演13:30終了予定15:00
場所/めぐろパーシモンホール 小ホール(東急東横線 都立大学駅徒歩7分)
料金/2,500円(当日券2,999円)
定員/200人