2005年5月1日/地域情報誌【ままんな】


共感と理解を味わえる即興劇


昨年の秋、都筑区にある武蔵工業大学の市民講座でプレイバックシアターを初めて体験した。演じるのは、プレイバッカーズという劇団のみなさん。「今日ここに来るまで、どんなことがありましたか?」と進行役(コンダクター)が参加者に呼びかける。私も出来事を話した。「息子の授業参観に行ってきました。息子は私の姿を見つけた途端にとてもイヤな顔をしました。やっぱりなあという気持ちでした」。その場面が即興で見事に再現された。驚いた。
その魅力に惹かれて2月に「人形の家」で行われた自主公演に出かけると、会場は満席。「穏やかな窓辺に憧れて」というテーマのもと、幼い時の家族の出来事を話した人、涙ながらに戦争体験を語った人、それぞれの物語が次々と再現され、最後に「未来をみてみましょう。どんな未来だといいですか?」とコンダクターが投げかける。「武器のない。人の幸せが喜べる。飢えた子がいない」と会場から声があがり、未来が演じられた。
プレイバックシアターは、アメリカのジョナサン・フォックス氏により考案され、20年程度前に日本に紹介された。プレイバッカーズ代表の宗像佳代さんは次のように語る。「プレイバックシアターは、感動、一体感を体験し、さらに社会変容したいという気持ちをもたらすのです」。体験を話した人(テラー)は「気持ちをわかってくれた」「批判、評価なしに受け入れられた」と感じることができる。その場に一緒にいた参加者は、共感を味わい、相手の立場と気持ちがわかるという効果がある。各地の女性センターや学校、企業などで広く開催され、昨年の暮れには迫害を受けた外国籍の人のためにイスラエル大使館でも上演された。
子ども同士のいじめ、家庭における夫婦や親子の問題、あちこちにはびこる暴力、つまり社会問題を解決し、世代、性別、属性、さらに国をも越えて理解しあえる可能性を持っているのではないだろうか。「百聞は一見にしかず」ぜひ体験してみてはいかがだろう。(文責/川瀬千穂子)


子どもの担任教師といっしょに体験して

年が明けてしばらくたった頃、中学生の長女から気になる話題。「このごろ男子が教室で騒ぎまくってたいへんなんだ。今日なんか教卓ぶっ壊しちゃったんだよ」・・ 聞けば、一部の男子生徒の悪ふざけに拍車がかかり、ふだんは明るく元気な担任の女性教師が涙をにじませるほどの悪態をつく毎日だとか。自分以外の人の気持ちを汲んだり察したりすることの大切さを、暴走する生徒たちに気付いてもらうにはどうしたらよいのだろう。私に何かできないだろうかと考えていた時、プレイバッカーズの公演を観るチャンスに恵まれた。思い切って担任に声をかけたところ、意外にも快諾してもらえた。公演当日、石川町駅で待ち合わせて劇場まで歩く道すがら、この頃の教室での様子などを尋ねてみた。気丈な担任は「みんなね、甘えたいんだなあって思うんですよ。かわいいヤツラなんですけど、ちょっと調子にのっちゃってますね。でも少し落ち着いてきたし、ボチボチやっていきます。」 担任も私も生まれて初めての体験であるプレイバックシアター。今聞いたばかりの話をその場で劇として仕上げていく様は、マジックのように不思議な感動をを呼ぶ。初対面のテラーや役者、たまたま隣に座った他人と、ある瞬間まさに同じ気持ちを共有できた喜びにひたる。私の涙、担任の涙、私を囲む無数の涙。それは、夫婦げんかで刃物を持ち出した父を見るという幼い頃の辛い体験を語ったテラーへの友情であり、自分にもどこかに覚えのある、似たような遠い記憶への涙だったように思う。 わが子の通う学校でも、生徒らにこんな心の共有を味合わせてやりたいとつくづく思った。涙をぬぐいつつ「良かったです。ほんと、良かったです」と繰り返す担任とは笑顔で別れたけれど、生徒らはその後どうなっただろう。
*東京都杉並区の公立中学校で授業として行われた時の様子が雑誌「ロゼッタストーン」20号に掲載されています。
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